バカな頭で考えた!

俺のきゅうり

近所のスーパーにきゅうりを買いに行った。

きゅうりだけじゃない。鳥肉も買った。他にサラダ油とかにんじんとかその他もろもろ

買った。

主たる目的がきゅうりと鳥肉でもそれ以外も買ってしまうのは人の常。

棒棒鶏のソースが家にあったのでそう思いついたのだ。

きゅうりは思いのほか高かった。

今きゅうりは高いみたいだ。

さりとて俺が作りたいのは棒棒鶏。

鳥肉がメインできゅうりは添え物さ。

幸いにもきゅうりは裸のまま一本単位でも売っていたので

そっちを買うことにして買い物かごに裸のきゅうりを一本放り込んだ。

鳥肉ときゅうりをメインにその他もろもろの入った買い物かごを手に俺は

レジに向かった。

レジは三つ。

空いているレジに向かう。

初めて見るバイトの男の子だ。

「いらっししゃいませ」おざなりな声で彼は言う。

あんまりやる気ない感じだ。

それはいい。それぐらいでもいい。スーパーのレジのバイトの男は

それぐらいでいいと思う。

やる気まんまんのレジの男は少し面倒くさく、こっちも何だか申し訳ない気分になる。

おざなりのバイト君はおざなりに「レジ袋いりますかー?」と聞く。

「いります」と答え精算を終え、かごからレジ袋へと買ったものを詰める。

前はレジ袋がなかなか開かず悪戦苦闘して無為な時間を過ごしたことがあったが

水を湿らせたスポンジに指を浸せばレジ袋は簡単にその口を開いてくれることを知ってからは

そんな無為な時間を過ごすこともなくなった。

しかしそれを知ったのはわずか数年前のこと。それまでは無為な時間を過ごしていたことよ。

いや、しかしそれだけではない。思い返せば無為な時間は山ほどあるさ。

そんなことを思ったり思わなかったり本当は思わなかったけど俺はレジ袋に買ったものを詰めた。

そして思った。

何かが足りない。

ボンヤリした頭で考える。

何かが足りない。

そう窓ガラスのいい、いやさっしのいい貴方ならお気づきのことだろう。

きゅうりがないのだ。

俺のきゅうり。

きゅうりはどこに行った?

あ!

と背後で声がする。

振り返る。

おざなりレジのお兄ちゃんがきゅうりを手にこっちを見つめていた。

そういうことか。そういうことだったんだ。

俺は胸をなでまわした。いや、なでおろした。

思えばそのスーパーのかごは濃い緑色。

「きゅうりがかごにまぎれちゃったんだな」

と言いながらきゅうり一本分の追加の精算を終えた。

俺とバイトお兄ちゃんとでどこか通じ合った感じがした。

まぬけなやりとりだった。

しかし俺の次の順番でレジに並んでいたお姉ちゃんはそれに対して全くリアクションが

なかった。

それは少し寂しい感じがしたけどあの娘にはあの娘に何か事情があることだろう。

いや分かんないけど。

スーパーを出て家路を急ぎながら考える。

このスーパーのかごは濃い緑色だったからきゅうりはそこに埋没した。

果たしてこれが黄色のかごのスーパーだったなら、そこでバナナを買ったなら果たして

同じ用なことになるのか?ならないのか?

ならないな。

すぐに思った。

そんな考えは打ち消して家路を急いだ。

何せ俺は棒棒鶏を作らなきゃならぬ。腹ぺこなのだ。

 

 

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