「あいつ男三人手玉に取って」「男も気がつかないのかね」なんて女子大生風二人組の女の子がにぎやかに話してるのを自転車で追い越しながら聞いた。自転車をこぎながら「男三人手玉に取る」女の子と「手玉に取られる」三人の男たちに思いをはせた。はせながらこいだよ自転車を。そして思った。「四人目にどですか俺?」なんて。
それならそれでいい。かも。
もともと振り回されたい傾向があるみたいだし。
けど、そんなのはごめんだ。心おだやかに暮らしてみたいものだ。とも思う。思った。
で、ガストについた。(ガストに向かう途中だったのだ)
ガストに入り、ビールを飲んでハンバーグを食べた。
で、また「手玉取り」女の子に思いをはせた。はせてハンバーグを食べてビールを飲んだ。
どんな女の子なんだ?
目の前を店員の女の子が横切った。
僕の注文を取った女の子だ。
20くらいの色白でちょっとハーフっぽいなかなか可愛らしい女の子だ。
この子か?この子はどうか?この子は取るかな手玉?
取らないな。取らないこの子は。
わからないけど。
でも基本的にまじめそうでいちずな感じ。
だから違う。
けど、待てよ。そんな子が意外に取るのかも手玉。
どうなんだ?
わからない。わからないことはわからない。
棚上げだ。ひとまずこの問題は棚上げだ。
店員の女の子はもう一人いる。てか、二人しかいない。
店の大きさ的にはもう一人くらい店員が居た方がいい気もするけど、二人でこのガストを回している。
ガストはガストな事情があるのだろう。
単純にもう一人バイトの子が休んじゃったのかもしれないけど。
それはともかく。
もう一人の女の子の店員だ。
この子はないな。取らないな手玉。
て、失礼だけど、いや、手玉に取らないように見えるのだから失礼じゃないのか。
22、3くらいで長い黒髪をくくった真面目そうな女の子だ。ちょっと地味めで、同級生でいても卒業したら思い出せないタイプか。
なんて勝手に思って。
けど、待てよ。実はこんな子こそ意外に、そう、意外に男が三人いるのかも。
だって考えてもみろ俺。エッチそうな子は意外にエッチじゃなくて真面目そうな子の方がエッチだったりするじゃないか。
いや、どうなんだ、この例えは?
なんか自分を大きく見せて筆が滑った気がする。
て、滑ってないけど筆。(こういう言い回しよくするな俺)
滑る筆、の代わりになる言葉は何か?
叩き過ぎるキーボード。
何か違う。
それじゃ「ゲームセンター嵐」みたいだ。
て、この例えもどうなんだ2015年のこんな世の中で。
もっと的確な例えがあるはずだ。
滑る筆、に代わる何かが。
・・・・
棚上げだ。
これも棚上げにしよう。そして本題に戻ろう。
ガストに戻ろう。
店員の女の子の手玉に戻ろうじゃないか。
改めて店員の女の子を見る。
ん?女の子がおばさんになっている!
おかしい。なぜ?
テーブルの上のメニューの表記を見る。
デ二ーズ・・
間違えてデニーズに戻ってた!
いけね!
て書いてみようと数分前に思い、これはいいアイデアだ!と思い、で、書いた。
果たしてどうなのか?
デニーズかバーミヤンかで迷った、実は。バーミヤンはガストと同じ系列みたいだから、バーミヤンにしようかと思ったけど、
いきなり中華も違うかと思い直し、デニーズにしてみた。
いかがでしょう?
いかがでしょう?じゃない。
もう、この時点で読むのをやめる人もいるだろう。
このバスを途中下車する人もいることだろう。
なんて賢明な乗客なんだ。
けど、こりずにまだこのバスに乗ってくれてる人がいるかもしれない。
いるのか?バックミラーを見かけて・やめた(そう、あたかもダイヤル回して手を止めるように。古き良き時代の話だ。)
てか、いつのまにかバスを運転している俺。
バスを運転したことはないけど何とか頑張るよ。
後ろに乗客がいるのか気にしないで、ひとまずスタートだ。
で、戻って来た。
おっかなびっくりバスを走らせガストの前にと到着だ。
席に戻り店員の女の子二人を見比べる。
時間がたつと、地味めの女の子の方がかえって逆に「三人手玉に取ってる」かもと思えてきた。
うちに秘めたパッションというか、もう一人の可愛いタイプの子の方が男にゃもてるかもしれないけど。
でも一人彼がいればいいです。それで十分ですあたし。てな感じがしてきた。
それに引き換えもう一人の地味めの店員さんだ。
あんまりもてなかった。けど、ようやく彼が出来た。でも自分に自信がない。こんな私を本当に愛してくれるのだろうか?
不安だ。不安な日々。恋をするってきっと素晴らしいって思ってたけど、何なのこれは!恋って苦しいんだねって気づいた20の夏。
新しく入って来たバイト(むろんガストのだよ)の男の子に告白された。こんな私を。なんであたしなの?亜衣ちゃんの方が全然可愛いのに!(亜衣ちゃんというのは件の色白の店員のこと。ここに来て命名してみた)
そんなこんなで桂子は(桂子にしました)新しいバイトの男の子ともつきあうようになり、更に大学のクラブの先輩の松井さんに酔った勢いで強引に連れてかれた相席酒場で知り合った29のサラリーマンとも会うようになったのだ。
なったのだ。って、なってないけど。
ガストでビールを飲みハンバーグを食べながら、そんなことを考える男が一人。
それもこれも、もともとは「三人手玉に取る」女の子のせいだ。
その子のことを考えてるうちにこんな有り様だ。
そいつのせいだ。
これじゃ手玉に取られる四人目の男になってるじゃないか俺は。
なんて考えた。ビールがなくなったので迷ったけどおかわりした。
ふわふわと酔いながら改めて店内を見回す。今度はお客の女の子を見ながら考える。あの子は取るのか手玉?この子はどうか?
新しいビールを持ってきてくれたのはめがねをかけた新しい女の子の店員。
ん?もう一人いたのか?
ぼんやりしてて気づかなかった。
この子はどうか?取るのか手玉?
もはや慣例になっている。
どうかな?いや、しかしあのめがねの女の子は桂子に似てるな(ええ命名した桂子です)
めがねの子を目で追う。やっぱり、あの子は新しい女の子じゃなくて桂子じゃないのか?
でも確信が持てない。桂子が急にめがねをかけたのか?それとも桂子に似た新たなめがね店員なのか?
どうなんだ?こうも考えた。普段コンタクトだけど家に帰るとめがねに変える子がいる。それか。それなのか?
まだ家に帰ってないけど、何らかの事情でコンタクトからめがねに変えたのか桂子?
しかし新たなめがね店員である可能性も消せない。
亜衣ちゃん(もう一人の店員ね)も忙しく働いている。日も落ちて来て客も増えて来た。
と、また桂子が現れた。めがねをかけてない。
ああ、てことはやっぱり桂子と亜衣ちゃんの他にめがね店員が新たに現れたんだな。夜からのシフトで、この混み合い始めた
ガストの救世主となるべく現れたのがめがねちゃんだ。
これで合点がいく。
はずだった。
が、違った。
また、めがねちゃんが登場する。今度は凝視する。似てる。にしても桂子に似てる。やっぱりあれは桂子じゃないのか?
てことは、桂子はめがねをかけたり外したりしてるのか?
なぜ?
そんなことする理由はなぜ?
すっかり桂子のことで夢中だ。桂子しか目に入らなくなって来た。(ごめんね亜衣ちゃん)
なんでそんなことするんだ桂子?
さすが三人を手玉に取る女。
もうすっかり四人目の男さ俺は。
けど、待て俺。
そんなにめがねをかけたり外したりするものかね?
やはり新たなめがねちゃん店員がいるんじゃないか。
どうなんだ?
いっそ聞いてみようか。
桂子を呼び止め
「すいません。ちょっと聞きたいことがあるんですけど、めがねかけたり外したりしてませんか?』
そうすりゃ早い。
早いけど。な。
この混み合い始めたガストの中でわざわざ桂子を呼び止めそんなことを聞く勇気はなかった。
いくじがないんだ俺。
で、考えた。
ほぼ桂子とめがねちゃんは同一人物であることと思われるけどさ、桂子とめがねちゃんが別人という可能性もないわけじゃない。
それを証明するにはたったひとつの方法がある。
それは桂子とめがねちゃんが一緒にいる現場を目撃することだ。
それだ。それが間違いない。
ビールを飲みながらじっとその瞬間を待った(ハンバーグはもう食べ終えた)
桂子をずっと目で追った。
忙しくよく働くな桂子は。亜衣ちゃんも頑張ってるぞ!
で、俺はしばし観察した。桂子とめがねちゃんと時々亜衣ちゃん、を。
二杯目のビールも空になった。
結局、桂子とめがねちゃんが一緒に現れる瞬間はなかった。
もはや桂子とめがねちゃんが同一人物であることは自明の理に思われる。
なぜか?なぜ桂子はめがねをかけたり外したりするのか?
俺には分からない。
けど、考えてみればこの世は分からないことだらけだ。
あの娘のことを知りたくってどんだけ言葉を重ねてもあの娘のことが分かるというのか?
あの娘がほんとのことだけを言うとも限らないし。
全ては謎だ。
自転車で追い抜かした女の子たちが話してた、そもそものこの話の発端である男を三人手玉に取る女の子が
どんな子であるか分からないし。
桂子が何でそんなにめがねをかけたり外したりするかも分からない。
それでいい。
そんなもんだよ。世の中分からないことだらけだ。
空になったビールのジョッキを見つめながらハイボールをおかわりしようか、どうしようかって一瞬思ったけどやめた。
わからないことはわからないままでガストを出る事にしよう。傍らに置いた制帽に手を伸ばす。(そう俺はバスの運転手)
ハンバーグとビール二杯と豆腐サラダのレシートを手に取り(今まで内緒にしてたけど実は豆腐サラダも食べてた)レジに向かった。
果たしてレジに現れたのは桂子。俺は桂子にレシートとTポイントカードを差し出した(だって、ここはガスト!)
レジで会計を進める桂子。
その刹那(刹那?)俺は口を開いた。
思い切って聞いたよ。頭の片隅には数少ない乗客の姿も去来したさ。
桂子に言った。
「すいません。ちょっと聞きたいことがあるんですけど、めがねかけたり外したりしてませんか?」
桂子はけげんそうにこっちを見るよ。
俺はあせって「いや、あれ店員さんもう一人いるのかなって。でも似てるし」
酔った勢いだ。酔った勢いもあって聞いてる俺の顔はきっと少し赤らんでいるだろう。
でも、桂子は優しい。
「いや、お客さんの席の番号のランプが見えないんです」と、ランプの掲示を指差した。
振り返り桂子が指し示す番号ランプを見た。
ファミレスにそんなものがあるとは知っていた。けど、すっかり忘れていた。
真相はこんなもんだ。
俺の頭を悩ませた桂子のめがねは客の番号ランプを認識するためにその役割をはたしていたのだった。
あっけない結末。
この真相を聞き出す意味はあったのか?
わからないことはわからないままでいても良かったんじゃないか。
桂子との会話もそれきりだった。こんな会話を交わしたからといって俺と桂子の間にどこか親密な空気が生まれるということもなく、
桂子からもうすぐ使えるクーポンをもらいガストを後にした。
むしろ少し気まずい雰囲気のまま桂子に見送られドアを開けた。
表に出れば空気はもう夏の夜のそれで、制帽を被った俺はバスを見下ろした。
果たしてバスは無かった。
だって乗って来てないもん。
俺は乗って来た自転車にまたがり家路をいそいだ。
いや、いそいでない。
家路という言葉に勝手に「いそいで」がついて来た。
いそがない家路を自転車こぎながら、もともとのこの話の発端の「男三人手玉に取る女」話を聞いたファミマの前を
通り過ぎ、桂子に投げかけた質問を思い返した。
その質問で桂子のめがねの真相はわかったけど、だからどうなんだ。って改めて思った。
まぁ、でもせっかくの質問だ。酔った勢いもあったけど勇気を出して発したこの言葉にまつわるあれこれを
久しぶりにブログに書いてみようか、なんて思いながらいそがない家路を自転車こいだ。
で、書いた。
そんな次第です。
あのガストには少し行きづらくなった。