買ってしまうよコンビニで。
「百年食堂」って大衆食堂を紹介した本が売ってたんですサンクスで。
パラパラと立ち読みしていたら目が離せなくなり、欲しくなり、いや、でも、ま、いいか
と思って一度は雑誌コーナーを離れたけど、後ろ髪引かれて買ってしまいました。最近後ろ髪もだいぶ伸びたしね。
引かれるよそりゃ。ただし後ろ髪だけが無闇に伸びてるわけではなく全体に伸びている。
この本をめくってるとね、こないだ高崎に行った時に目をつけた食堂が載っている!
高崎映画祭の方に挨拶しに行ったのです車に乗ってねプロデューサー勇武くんと主演の下石さんとね俺たちゃ車飛ばして海の見える方に
じゃなくて空っ風餓鬼道空っ風群馬の高崎にかかぁ天下の群馬の高崎に行ったのだ。
空っ風は吹いてなかった。覚悟して行ったけど風は吹かなかった。かかぁは天下だった。いや嘘。それもわかんない。
そんな数時間の滞在じゃ分からない。しかし大体かかぁ天下なんじゃないんですか世の中、え、どなんすか?それともよっぽどですか?
よっぽどかかぁ天下なのか?ふーむ。それはそれで平和でよさそうだ。
群馬の女は毛深いぜぇ
って清志郎が歌ってたけど、何てこと歌ってるんだ?って思うけど、それはそうだった。嘘、そんなの分かるはずないじゃないか!
んなことはともかく、食堂ですよ。
高崎でね、どーせだからって本屋でガイドブック立ち読みして見つけた食堂に行ったですよ。昭和の初めからやってるっつう名物の食堂に行きました。
机の上には来た人が書くノートなんて置いてあって見てるとみんなカツ丼うまいカツ丼うまいって書いてあるですよ。
だから素直に頼みましたよカツ丼1、2、3、三人分、ホントはオムライスにも心惹かれたけど。後ろ髪引かれたけど。髪だいぶ伸びたから切りにいかなきゃいけないけど。ま、今度来た時に食べればいいじゃないかオムライスは。で食べましたカツ丼。その前にノートにはうちの犬の絵を書いておきました。犬の絵も書いて、んで満を持してカツ丼に臨みました。
ノートにボリュームあるボリュームあるって色んな人が書いてましたからね。それなりに心の準備はしてました。でもね実際に対峙すると••
いわゆるソースカツ丼です、大きなカツが三つ載ってますよ。それを一つずつ食べて行きます、ご飯と一緒にね。一歩ずつ山頂に登っていく感じです。
カツはおいしいです。でもおいしいカツってさ最初はいいすよ、けど段々胸がいっぱいになるですよ。
でも俺も大人の男。カツ丼一杯食べられないんじゃ情けない。二つ目のカツを食べたところで相当胸が一杯になりました。感無量です。
でも残りあと一つ。あと一つカツをやっつければ(そんな言い方しちゃいけない、それはわかってる。でも正直そんな気持ち)頂上ですよ。
先は見えて来たよ。そう思って三つ目のカツを咀嚼してると目の前の女「あまっちょろいラブソング」の主役下石奈緒美が言いました。
「カツ一つ食べませんか?」
彼女は松江勇武プロデューサーと俺の顔を見ながら言いましたよ。
無理もない。そりゃ無理もない。
下石奈緒美は決して食が細い女じゃないが、二つで充分だよカツ、この店じゃ。
俺たちゃ目を合わせましたね。いや勇武くんとねどっちがそのカツを食べるかね。
出来れば遠慮したい。
勇武くん食べてくんないかな?
でも勇武くんも胸がいっぱいなご様子。
俺たちゃ無理だ。情けないけど無理なもんは無理なんだ。
って下石奈緒美を見やれば、このカツをこのカツをどうか一つよろしくお願いします、って嘆願系の顔をしてらっしゃる。
嘆願顔だ、嘆顔だ。
再び勇武くんを見る。勇武くんもこっちを見る。
半分こすることにした。
苦労してカツを半分にする。それをご飯の上に載せる。
もうすぐ頂上だったのに。頂上だと思った先にまだ山の頂きはあったのだ。
再びカツとごはんを咀嚼する。
胸はいっぱい。
あせらずに一歩一歩いけばいい。
そう思った。
目指すはあの頂きだ。
そう思いながら山道を登っていた。と、
「茶漬けだよぉ」
山の彼方から誰かが言った。
「とんかつ茶漬けにすればいいよぉ」
え?茶漬け••そうか。そう言えば••
「そうだよぉ。新宿にあるじゃないかぁ。とんかつ茶漬けを出すお店がぁ」
あぁ、ある。あるね。一度行ったよ幸吉くんと。
「そうさぁ、幸吉くんと行ったあのお店さぁ。あれだよ。あれをやればいいんじゃないかぁ、こんな時はぁ」
そうだね、そうだ。やってみる。幸吉くんと行った以来行ってないけど。やってみるよ,俺!
で、お茶漬けしました。
とんかつ茶漬け。
もともと人一倍ひつまぶしが好きな男だし。
うんそうだ。それに単なるお茶漬けも大好きさ。
で、久しぶりに食べたよとんかつ茶漬け。
結構いけました。
無事山頂に辿り着いた。
ありがとー!
山頂から叫んだ。三人声を揃えて叫んだ。
ふと気づけば山頂にかかぁが一人やって来た。その後ろにもかかぁその後ろにもかかぁ。次から次へかかぁがやって来た。かかぁは手に手にとんかつを持ちムシャムシャと頬張りながら登って来る。すぐに山頂はかかぁでいっぱいになった。かかぁだらけになった。かかぁだらけの大運動会だった。
あぁ、かかぁ天下。
そう思った刹那空っ風が吹いた。俺の後ろ髪は激しく風に揺れてなびき、勇武くんのハンチングは遠く山の彼方に飛び、下石奈緒美は「きゃぁ」と崖下に滑落したけど、かかぁ達のがちがちパーマは揺らぐことはなかった。風はピープー吹いていた。
山を登り終えた俺たちはその後焼きまんじゅう屋さんやラスク屋さんに行った。両方とも高崎名物なのだ。
お土産だ。別腹になりそうなジャンルではあるけれどカツ丼でお腹いっぱいの俺たちゃにや無理だ。
無理なんだ。
あぁお腹いっぱいだ。あのカツの奴めとお腹をなでながら高崎市内を車で走らせていた時に見つけた食堂。
そう、その食堂こそが「百年食堂」で紹介されている食堂だ。
良さげな店ってのは佇まいがある。そういのは割と目ざとく見つける。
それよりも何よりも大きく店の表にカツ丼カツ丼って書かれてあるのが珍しい。これじゃまるでカツ丼専門店だ。
「あの店おいしそう」
助手席の勇武くんに言う
「うわ、ほんまや。なんかうまそう」
「なぁカツ丼カツ丼ってあれはきっといい店だ」
「ほんまや」
と、後部座席でお腹をさすっていた下石奈緒美が
「もう無理ですよぉ」
と嘆願。嘆顔。
仕方がないので下石を車に残して俺たちは店に入った。入らなかった。入らずにシネマテーク高崎に向かったのだった。
約束の時間が迫っていたし、もう胃袋が無理なのは後部座席にいる女だけじゃなかった。
また今度来ようこのカツ丼屋に、4月の高崎映画祭「あまっちょろいラブソング」上映の時に。
そう心に決め車を走らせた。
数日後、
「百年食堂」を購入した俺は毎日高崎の食堂のページを開いてはカツ丼に思いをはせている。
「カツ丼は、肉の柔らかさにまず驚く。そして周りの衣はサクサク。自家製醤油タレを含んだもっちりとした旨味〜」
なんて書いてあるのだ。
だから思う。
4月になったら高崎に行ってこの店に行こう。んでカツ丼頼んで肉の柔らかさにまず驚こう。
そして山頂から叫ぶのだ
柔けー!
横では勇武くんが言うだろう
サクサクやぁー!
下石奈緒美は今度こそ一人でカツ丼を完食するだろう。
今度は一人で出来るだろう。