については「あまっちょろいラブソング」の中で山中崇さんが
一人運転する車のカーラジオからいかしたDJが何やら言っておりますが。
傘はなくします。
冨樫さんがこないだ神戸にやって来た時は傘を手に持っていました。
東京は雨だったようです。
しかし神戸は晴れ。
冨樫さんは傘を持ち歩き中華料理店〜元町映画館〜居酒屋と移動しました。
そしてホテルで一泊。
翌日も晴れ。
ホテルに迎えに行くと冨樫さんは傘をなくしたと言います。
昨日行ったどこかに忘れてきたようです。
ごく普通の黒い傘でした。
ホテルを出てひとまず鉄人28号を見に行きました。だって冨樫さんは実写版「鉄人28号」を監督しましたからね。
僕も助監督しましたし。
長田駅前で鉄人28号を堪能した後に神戸駅で降りて元町商店街をぶらつきまた元町映画館に顔を出しました。
冨樫さんの記憶ではここに傘を忘れた可能性が高いそうです。
しかしない。
多分ないだろうけど最初に行った中華屋さんにも確認に行きます。
やっぱりない。
もう一つ可能性のあるのは居酒屋さんですがそこはまだ営業してない。そしてそこに忘れてる可能性は低いと言うことです。
少し残念な面持ちで神戸を後にした冨樫さんでした。
まぁでもよくある普通の黒い傘だしな。
なんてひと事の僕はぼんやり思ってました。
最終日の上映が終わり泊まっているホテルへ向かう途中、一応可能性のある居酒屋に顔を出しました。
黒い傘の忘れ物がないか?店の人に尋ねます。
「その傘立て見てって。あれば持ってって」
店の片隅の傘立ての中には黒い傘があります。
しかし黒い傘なんて世の中とってもとってもたくさんあります。
果たしてこれが冨樫さんの傘なのか?
特徴があると言えば木製で柄の部分に「この傘は通常の傘より骨の本数が多い」
なんて書いたシールが貼ってある。
確認の為に冨樫さんに電話します。
電話に出た冨樫さんに傘に貼ってある骨の本数が多いことをアピールする文章のことや傘が木製であること
などを告げます。
その特徴は冨樫さんの傘に間違いないようです。
お店の人にお礼を言って店を出ます。
アーケードに出て改めて傘を広げて見るととってもいい傘だ。
先端の部分にはお洒落な金具の装飾なんてついている。
逆に不安になって来ました。
これは本当に冨樫さんの傘なのか?
もっとどうってことない傘のようだった気がしたけど。
誰か他の人の傘持って来ちゃったんじゃないのか?
実際僕にはそういう経験がある。
雨の中ラーメン屋さんに行ってラーメンを食べて出てくると雨が止んでいた。
で、自分の傘を取り電車に乗って目的地に行った。雨が降っている。なので傘をさした。
と、ワンタッチで開いた。で、歩き出して数歩。何かがおかしいことに気づく。
俺の傘はワンタッチで開く傘じゃなかった。
だのに傘はワンタッチで開いた。
凄い進歩。
いや、そんなことはない。
傘はそんなに早く進化しない。
僕の傘はギンガムチェックの傘だった。
ワンタッチ傘もギンガムチェック。
ちょうど、その頃ワンタッチで開いたはずのギンガムチェックの傘が何故か開かず手動で傘を広げながら舌打ちをしてる男が居た。
かれこれ15年ぐらい前の話。
そんなことになったら気の毒だ。
再確認の為にもう一度冨樫さんに電話する。
「何か見れば見るほどいい傘なんですけどこの傘」
「だから探したんだろ」
「はぁ、そうですか」
確かに結構あきらめずに探してるなぁ、とは思ったけど。
「いい傘持ってると雨の日の楽しみが増えるだろ」
まぁ何か可愛らしいこと言ってらっしゃる。乙女みたいだ。
「でも傘ってなくしますよねー」
「まぁそこの兼ね合いが問題だな」
電話を切り神戸の街をホテルへと向かった。それまで何の気なしに持ってた傘だけど急に緊張感が増してきた。
いつも傘を持ち歩く時はステッキの様にトントン突つきながら歩くけどそんな訳にはいかない。何せとってもいい傘だ。
歩きながら不安になって来た。
俺はこのままホテルに無事に傘を持って帰ったとしても翌朝何もなかったかのように傘をホテルに忘れてくることだろう。
一晩寝たらそんなもんだ。俺はそういう男だ。何度も何度も傘をなくしてきた男だ。自分で自分が信用できない。
だから使い捨てのコンビニ傘が基本だ。たまにそうじゃないお気に入りの傘を持ってた時期もあったけど結局なくしてしまった。
そんなこと思いながら夜の神戸の街を歩くことしばらく。
なくしてしまった傘たちよ。みんなどこへ行ったのか?
俺はUターンをした。
映画館の近くの安い駐車場に車を止めている。
その車に傘を置いておこう。なくさないように置いておこう。
だいぶ歩いたけど来た道を戻って駐車場に向かった。
てことで傘を車に置き翌日傘と共に無事東京に戻って来た。
近々傘を冨樫さんに渡しに行かねばなるまい。
しかし、その途中で傘をなくしてしまったら残念だ。あまりにも残念だ。
どうしたら傘をなくさずにすむものか?