バカな頭で考えた!

Monthly Archives: 10月 2018

55番の男

俺は55番だった。

西友の駐輪場の番号だ。

ツタヤにDVDを返しにいくのに自転車を止めた西友の駐輪場。前は無料で止められたけれど、今は最初の1時間だけが無料でその後は2時間ごとぐらいに100円がかかるようなそんな駐輪場。

大方埋まってる駐輪場で見つけた空きスペースが55番だった。

55番に自転車を止める。で、隣の56番の自転車の籠に目が止まる。そこには1リットルの紙パックのコーヒーが放置されている。

良く見る雪印のコーヒー。

コーヒーと書かれてるけどコーヒー牛乳なアレだ。

その雪印コーヒーにストローが刺さっていた。

本当にいるんだ。と思った。

1リットルの紙パックの飲料にストローを刺して飲む男がいるんだ。と思った。

常々謎だった。

コンビニで1リットルの紙パックの飲み物を買うと聞かれる「ストローはお付けしますか?」という問いかけを。

いつも憮然とした思いで聞いていた。

これをストローで飲むか?

飲まないだろ。

と内心思いつつ

「いらないです」

と答えていた。

聞いてる店員も

まぁそうでしょうね。

って感じだ。

仕方なく聞いている。

それが店のルール。

と思ってた。

けど56番だ。

56番の自転車の籠に厳然と存在する雪印コーヒー1リットルに刺さったストロー。

そういう人もいる。

そんな飲み方をする男もいるんだ。

世の中は多様だ。いろんな人がいる。

駐輪場からツタヤに向かいながらそう考えた。

そりゃコンビニの店員もストローを付けるかどうかを尋ねる訳だ。

ツタヤの返却ポストにDVD(「ふぞろいの林檎たちパート2」)を投函し銀行のATMに寄り駐輪場に戻った。

55番のボタンを押し精算のボタンを押す。

「精算の必要はございません」という機械の音声を聞きながら55番の自転車へと向かう。

56番の自転車は変わらず56番の自転車のままで籠にはストローが刺さった雪印コーヒー1リットルが存在している。

何だかふてぶてしくも見えてくる。

大体がさつな奴だ。56番の自転車に乗る男はきっとだらしのないがさつな奴だよ。55番の自転車の俺は勝手にそう思いながら自分の自転車を引っぱり出した。

でもよ。

ふと思う。

56番の自転車の持ち主を勝手に男だって想像してたけど意外に女かもしれない。

雪印コーヒー1リットルストロー付きを飲む女。

確率としては低いが全くありえない話ではない。

そう言えば大学の時、同じゼミの女の子がある日デカビタを持って授業に現れたことがあった。まだデカビタが発売されて間もない頃だったと思うけど、デカビタとその女の子のギャップに驚いた。

そんな記憶が蘇る。

あの女の子はどうしてるんだろう?卒業以来全く会っていない。

「♪幸せならいい〜け〜ど」

永ちゃんのメロディーが脳裏に浮かぶが、かといってその女の子とどうのこうのあったわけではない。

いやまてよ。

この可能性もあるぞ。

自転車をこぎながら考えた。

56番の男(女?)は雪印コーヒー1リットルなんて飲んでいなかった!

あの雪印コーヒーは57番から移動してきたのかも。

57番の自転車の男(女?)が自分の飲み終えた雪印コーヒーを隣の56番の籠に入れたのだとしたら。

そんなことをする奴がいる。他人の自転車の籠を勝手にゴミ箱にする輩がいる。自分の自転車にも過去に何度かされた。

一緒に助監督をやってた仲間が飲み終えた缶ジュースを普通に通りすがりの自転車の籠に入れてびっくりして注意したこともあった。

だから思う。

56番の男(女?)はひょっとして57番の犠牲者かも。

いや、ちょっと待て。

自転車をこぎながら更に思う。

もし、もしもだ。

俺があのタイミングで駐輪場に戻っていなかったら。

こんな場面を想像する。

俺が55番に自転車を止めツタヤに行き銀行のATMに行った後にもしカレーの匂いに誘われついつい西友の隣のココ壱番でカレーを食べていたのならば。

俺が呑気にカレーを食べてるちょうどその頃、駐輪場に戻って来た56番の男は自分の自転車の籠に入れられた見知らぬ雪印コーヒーを見て怒りを憶えそのコーヒーを55番の籠に移動させる。そしてカレーを食べ終え満腹の俺は駐輪場に戻り自分の自転車の籠に鎮座する雪印コーヒーを目撃し愕然とする。

そんなことは無かった過去だ。

が、ありえたかもしれない過去だ。

もしそうなってた場合俺は54番の男もしくは女から55番の自転車の人って雪印コーヒー1リットルをストローで飲むんだって思われるかもしれない男だ。

何てこった。

俺は55番の男だったが56番の男になってたかもしれないのだ。

自転車をこぎながらそんな可能性を考える。

もし、そうなってた場合俺は紙パックのコーヒーをどうしたか?

他の人の自転車の籠に入れるのか?

それはしない。そんなことはしたくない。まず考えるのは近くのゴミ箱に捨てることだ。でも、そんな近くにゴミ箱は都合良くない。どこならある?駐輪場から家へ向かう途中にある公園ならゴミ箱があるかもしれない。あそこに捨てよう。まずはあの公園のゴミ箱へと向かおう。

でも公園にゴミ箱がなかったら?

その場合はもう家に持って帰って家のゴミ箱に捨てるのだろう。

そう思いながら自転車をこぐ俺の自転車の籠には何も入ってないけれど、ひとつ間違えればその籠には雪印紙パックコーヒー1リットルストロー付きが入っていたかもしれない。

そしてその光景を目撃されたら、その目撃者には俺は雪印紙パックコーヒー1リットルをストローで飲む男だ。そんな中年男だ。

いや数ヶ月前に聞いた話だ。久しぶりに会った若い女優の子は俺の家の割と近所に住んでいて、その子のお母さんが何度か俺を目撃してるとのことだった。車を運転中に俺が呑気に歩いてる様子を何度か見てると言っていた。

本当に俺なのか?似た別の人じゃないのか?

そう尋ねる俺に「郵便局みたいなカバンを肩からかけて宮田さんが歩いてたってお母さんが言ってた」とその子が答えるのでグーの音も出ない。(グーの音って何だ?)

それは間違いなく俺だ。俺は郵便局みたいなバッグを持ってる。ある時姉から赤い布地に郵便局の白い〒マークが入ってる郵便局みたいなバッグをプレゼントされ気に入って持ち歩いていた。

そんなバッグはなかなかない。

お母さんが目撃したのは間違いなく俺だ。

さて問題は雪印紙パックコーヒー1リットルストロー付きだ。

もしそれを自転車の籠に乗せてる時にまたもやあのお母さんが車からこっそり俺を(こっそりじゃないけど)目撃していたら。そんなことがあったとしたならば。

お母さんは興奮し(別に興奮はしないか)その晩娘が帰宅するやいなや今日の目撃を語る。

宮田さんは雪印紙パックコーヒー1リットルストロー付きを籠に乗せて自転車をこいでいた。

何ならストローで飲みながら自転車をこいでいたよ。

って脚色をするかもしれない。

人の口は止められない。むろんお母さんの口も。

そうするともはやその子の家では俺は雪印紙パックコーヒー1リットルをストローで飲む男だ。

そんな中年男だ。

それはいいことではないだろう。いや、いい要素もあるか?

いや、あまりないと思う。

俺の目指すべきナイスミドル(目指してたのか?)とは程遠い姿だ。

世の中はいい誤解と悪い誤解しかない。

と言っていたのは立川談志だ。

あの日あの時見たあれや聞いたあれが実は誤解で、でもそれが誤解かどうかなんて分からなくて勘違いしたままそのままその後の人生を送る。

そんなことがあるやも、いやあるんだろう。

そんなことを55番の男は考えた。

ただあのお母さんには雪印紙パックコーヒー1リットルストロー付きを自転車の籠に乗せてる時に目撃されたくなかった。

どうせ目撃されるなら自転車の籠に入ってるのが別の何かそうそれなりの値段のワインかシャンペンか何かが入ってる時に目撃されたかった。そっちの方がかっこいい。

それが悔やまれてならない。

いや、ならない。