雪が降ると雪かきします。
こないだの雪の日もしてました雪かき。
都知事選に行こうと部屋を出ると大家さんが雪かきしてました。
挨拶をして「選挙に行って来ます」と言うと
「偉いわねー。誰に入れるのかしら?」
え?俺はここで言うべきか?言ってもいい気もするけど政治の話は危険だ。
せっかくのこの良好な大家さんとの関係性を壊したくない。
「内緒です」
俺はそう言い投票所に向かった。
向かったってたってとっても近い。30歩くらいで投票所についてしまう。
だから選挙はいつも楽勝だ。
雪どけの道を歩きながら大家さんの「誰に入れるのかしら?」という言葉に思いをめぐらす。
あれはそう遥か昔のクレアラシルのCMで女子高生が自分のニキビを見つけ「あ、思われニキビ。誰のかなー?」
って明るく言ってたそんな感じ。
あのCMのことをどれだけの人が覚えてるか知らないけれど、可愛い女子高生が自分の顔に出来たニキビを思われニキビと
解釈し、おまけに「誰のかなー?」と周りの男子生徒を見回す。すると、何てことだろう男子生徒たちが「俺の」「俺の」
と各々自分の思われニキビだと手を上げて主張するのだ。
このCMは恐らく高校生くらいに見たCM.もう20年以上前の話。あの頃あのCMを見て俺はケッと思った。
何だこの女!
そう思った。
俺だったら「俺の」って手を上げない。本当にその女の子のことが好きでも手を上げない。そんなに簡単に上げられない。
てなことを思い出した。
しかし、そして思う。俺はそのCMを見た後、世の中には思われニキビというのがあるのだと認識し、ニキビが出来る度に
このニキビは誰が俺を思ってくれてるのだろう?と思ってたことを。
あぁ若かりし日の妄想よ。
今やニキビなんて出来ないけど。
それに気がつけば最近はニキビ面の若い子があんまりいないな。
どうしてだろう?
松井とかなんちゃんみたいなの見かけない気がする。
世の中は変わった。
投票を終えるとそのまま部屋に帰らずに近所のセブンイレブンに行った。特に買いたいものもなかったけど
雪の道を歩いてみたかった。
たくさんの人たちが家の前に出て雪かきをしていた。
なかなか見ない光景だ。
この家にはこんな人が住んでるんだ。
ある家では美人な若奥さんがスコップを手に慣れない雪かきをしている。
それを見守る義父とその腕に抱かれる孫。
いや知らない。
それが義父なのか実の父なのかはたまた年の離れた夫なのか俺は知らない。そんなことしる由もない。
ただそんな気がしただけ。
しかし俺は覚えてる。
その義父がある日道ばたに立っていたことを。
歩いてるのではなく何故か住宅街で一人立つそのおじいさんが少し気になった。
何であのおじいさんは一人立ってるのか?
と、そのおじいさんから少し離れた曲がり角から3歳くらいの男の子が現れおじいさんに向かって走り出したのだ。
おじいさんはその子が到着すると抱き上げた。
そんなことがあった。
その時のおじいさんと孫だ。そのおじいさんの義理の娘が雪かきをしているのだ。
いや義理の娘かどうか知らないけど。
ひょっとして、そう、ひょっとしたら離婚した出戻りの娘かも知れぬ。
そんなことは分からない。
今日も雪が降った。二週も続けて大雪だ。きっと明日も雪かきをするだろう、あの若奥さん。
また会うかもしれない。俺がセブンイレブンに向かう途中にまた会うかもしれないあの若奥さんに。
そしたら俺は思うだろう。この人はこの家に嫁いで来た嫁なのか?それとも離婚した出戻りの娘なのか?
はたまた年の離れた夫に嫁いだ嫁なのか?
そんなことを頭にかすめつつ俺をその家の前を通りセブンイレブンに向かうことだろう。いや向かうのか?
俺は明日セブンイレブンに向かう用事はあるのか?
あるかもしれないしないかもしれない。
そもそもあの奥さんが雪かきをするかどうかも定かでない。
定かでないったら定かでない。